「ドードー鳥の飼育」どことなく世にも奇妙な物語の雰囲気も

くらし 読書感想文

2015/07/03(金)

読書感想:ドードー鳥の飼育

一番最初の投稿は、やっぱりこのブログのURLの元になった薄井ゆうじさんが書かれた「ドードー鳥の飼育」の感想から書いていきます。この本はめちゃくちゃ面白い。短編集になっていて、どの作品も世にも奇妙な物語のような少し不思議な、もしもの世界を描いているのが特徴です。

本のタイトルにもなっている「ドードー鳥の飼育」や、もっとも世にも奇妙感が強い「A級ハムサンド」、それから最後の一文がすばらしい「無人駅長」、そしてそして最もおすすめしたい「タイムイーター」などなど、他にも多数収録されています。どの作品もとにかくすごく読後感がいい。さわやかな感じがやみつきになります。ぼくは半年に一回ぐらい読み返しています。

ここからはぼくが特に好きな作品をすこしだけ紹介したいと思います。

ドードー鳥の飼育

ドードー鳥、絶滅しているとされている鳥だったんですが最近目撃されたとかいうニュースが出ましたね。そうなってくるとこの作品は意味合いが違ってしまうところがあるのですが、ここはドードー鳥がいない、絶滅してしまった世界だと思って読んだ方が楽しいです。

…それはさておき、冒頭で主人公はドードー鳥の飼育当番の係りに選ばれます。この世界ではドードー鳥の飼育はとても憧れの仕事。主人公は喜んで初めての仕事場に向かいます。そこには女性の先輩が。仕事を教えてくれるそうです。案内されいざドードー鳥の飼育小屋に行ってみると、なんと主人公にはドードー鳥が見えないのです。さてどうしよう…。というのがこの話の冒頭部分です。

どちらかというと純文学的な、そこから何を感じ取るか、みたいな話です。とにかく文体がめちゃくちゃいいです。以下はぼくが象徴的だと思った部分なのですが、主人公がドードー鳥の小屋を掃除して最後に鍵をかけるときのシーンです。

扉に南京錠をかけながら僕はふと、これは何のための錠なのだろうと考えた。鳥が逃げないためのものか、それとも鳥が入ってこないためのものだろうか。

この短編に関わらず、ドードー鳥の飼育という本に関しては、読むたびに別の感想になってしまうのでまた変わるとは思うのですが、今回ぼくがドードー鳥の飼育を読んで思ったことはいつもどおりの生活っていいものなんだな、毎日同じことの繰り返しを楽しむというか、そういう気持ちになりました。

A級ハムサンド

A級ハムサンド!この作品を触れずにはいられないでしょう。

とにかく皮肉たっぷりに書かれていて、先にも書きましたがとにかく世にも奇妙な物語色が強い作品です。きっと「ドードー鳥の飼育」全体で一番不思議な世界観を感じられることと思います。

ぼくもこの作品は楽しいという気持ちが勝ってしまって、あまり何か思うことがありません。しかし文体はとてもきれいでしかも単純におもしろい。なかなかきれいな文体で面白い作品ってないと思います。そんなすごい作品です。

あらすじとしては、ハムサンドを作るためにハムを買いにきた主人公が巻き込まれるお話です。この話はあまり書いてしまうとおもしろさを損なう気がするので、作品の根幹とは関係なくぼくが好きな一文を紹介します。

老人の沈黙は、なぜか死への積極的な歩みのように思える。

なんか妙に頭に張り付いてしまうこの言葉。ハムサンド関係ないですが、なんか気になる文章でした。

先ほども書かせてもらったんですがとにかく面白いです。おもしろいからか分からないけど、読み終わったらなんか前向きな気持ちになれます。仕事終わりとかによく読んでました。おすすめ!

無人駅長

この話は、ことばが悪いかもしれませんが、宮沢賢治さんの「銀河鉄道の夜」のオマージュとぼくは思っています。でも読後感がすばらしい。すべての作品の中で最後にこんなにいい気持ちになった作品はないです。それだけでも読んでほしい、と思います。

銀河鉄道のオマージュってことなので、鉄道やら、死後の世界?だったりそんな感じの話です。一番違うのはやっぱり最後の終わり方です。そこは読んでもらって感じてもらうとして、ぼくが紹介したいのは文体です。「ドードー鳥の飼育」全体の雰囲気を少しでも感じてもらえたらと思います。汽車に乗っている主人公にある女性が話しかけてくるシーンからです。

「あのう…、この汽車は、どこへ行くのでしょうか」 僕はすっかり驚いてしまった。

「すっかり」の感じとかがめっっちゃくちゃいいですよね。全編通してこんな風な、さわやかでふわっとする文体で書かれています。ぜひ寝る前に読んでほしいです。

タイムイーター

ぼく個人としてはこのタイムイーターという作品が一番メッセージ性が強いと思います。

そして年齢によって感じることが大きく変わるんだろうなと思っています。いつまでもこの本を手元に置いておきたいと思うのはこの話をまた10年後、20年後に読んでみたいからというのがあります。それくらい深い作品です。また、スピード感も物語の浮遊感もすごいです。

主人公はあるとき叔父から五郎という名のペットを譲ってもらう。病気がちな母親はそれに大反対する。このペットが特殊なペットだったからだ。そうして幾日後、母が亡くなった…。

スピードがすごいです。そしてその間の掛け合いも。どんどん目で追っていくうちに、スピードがどんどん上がって、さらに上がって…、ある時ふと台風の中心に来たみたいに、急にゆっくりになります。

ああ、この物語の最後まで来たんだな、あっという間だったな、というのが文体のスピード感やらで増幅させられて、そしてそれがこのストーリーにも大きく影響していて、とにかくすごいです。

今回もあんまり物語とは関係ないところから一つ、抜き出させてもらいました。

母の心を傷つけたであろうことを察した。満足だった。子供が、病で寝込んでいる母にしてやれることは傷つけることだけだ。少年の私はそんなことをぼんやりと考えながら、…

主人公の何も出来ないけど、何か母親にしてやりたいという気持ちがとても出ていると思います。いままで意識していなかったけれど言われてはっとしまうところなんかが、A級ハムサンドの一文とすこし似ている気がします。とても好きな一文です。

さいごに

「ドードー鳥の飼育」。とにかく全編とおしておもしろいです。また面白いだけでなく読後感は気持ちいいし、考えさせられる。そんな三拍子そろったすごい作品ばかりです。

ドメインにするくらい入れ込んでいるぼくですので、すこし肩入れしすぎているかもしれませんが、ぜひ読んでほしい、そしてこの今まで味わったことのない読後感を感じてほしいととても強く思う一冊です。